腰相撲では、一対一だけでなく上図に見られるように多人数で押してもらう場合があります。 この多人数で押す場合、私が分析したところでは、他で行われている腰相撲では、押す側の人間がグシャグシャに潰れて押してしまっています。これは見た目にはものすごい迫力ですが、果たしてどれほどの力が掛かっているのでしょうか。 また、それとは反対に、太極武藝館で行われている多人数の腰相撲では、押す側の人間もきれいに整った姿勢で押しています。この2つの押し方にはどのような違いがあるのでしょうか。 まずは、力の分析をしてみましょう。
多人数で押していく場合は、一番前で押している人に後ろからの押されている力を加えることで、今までと同様に力の分析をすることが出来ます。 潰れて押して行っている場合には、一番前の人は足幅が狭くなり、押される人にほとんど寄り掛かるような状態になっています。 <図20>に見られるF’は後ろから押される力です。そこで、かかっている全ての力の和が0になっていることと任意の点における力のモーメントの和が0になっていることが必要であるので、
そこで、最大の力で押している場合には前足の垂直抗力N’=0になっていると考えることが出来るので、
このとき、足幅が狭いことにより→大であるので、cos→小となり、重心による後ろ足を中心とした時計回りの力のモーメントは小さくなり、後ろから押されている力は伝えられているのですが、一番前の人による押す力はほとんど出ていないことになります。 前から2番目、3番目・・・と同じように力の分析をすすめていっても同様の結果が得られます。
さて、今度は押す側の人間が整って押していった場合について考えてみましょう。 力の分析においては、足幅が広くなっている以外には特に違いがないことが分かりますね。
先ほどと一緒ですね。ここで、変化してくるのはの値なのですが、足幅が広いため、→小となります。すると、cos→大となり、重心による後ろ足を中心とした時計回りの力のモーメントは大きくなり、一番前の押す力が潰れて押していく場合に比べて、大きく出せることになります。 しかし、ここではsin→小となっているため、後ろから押される力が余り伝わっていないことになってしまいます。 つまり、押す側が潰れて押していった場合には後ろからの力をよく伝えられ、押す側の人間が整って押していった場合には一番前の人の押す力が相手に伝わりやすいと言うことになります。
因みにの値は後ろから押す力に比べ、体重の方が小さい場合は小さくなり、後ろから押す力に比べ、体重の方が大きい場合には大きくなります。簡単に言うと、体重の軽い人は足幅を狭く、体重の重い人は足幅を広くして押した方が物理的には効率がよいということです。
そこで、(2)に見られるような押し方で実際に圧力板を押していったのですが、1人目、2人目では力の増大が見られるのですが、3人目では微弱となり4人目ではほとんど変わらないという結果に至りました。中でも、先頭で押す人のちからの大きさによりその増大する割合が変化することから、一番前で押す人の腕力によりある程度押せる力の最大値が限定されていると思われます。
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