太極武藝館


門下生の声



池田 幸浩

 Yukihiro Ikeda
武藝クラス所属
太極武藝館ホームページ製作班主任
1971年 大阪市生れ
1999年5月 入門



池田さんは、太極武藝館のホームページやビデオ、BBSなどの製作主任として活躍されています。
2004年に武藝館のホームページを手がけて以来、その力量はご覧の通り。全くの素人が製作した処女作とは思えないほどの出来で、内外から大きな反響を頂戴しています。
また、今年の春節を期してオール・リニューアルを行い、今までとは違う新しい味わいを見せてくれています。
制作主任としての苦労話や裏話、また、ファインダーを通して観た武藝館の稽古が一体どのようなものであるのか。
今回は、そのようなことをお伺いしていきたいと思います。


編集部:
こんにちは。今回はインタビューされる立場ですが、どうぞ宜しくお願い致します。


池田:
いやー、緊張しますねー、こちらこそ、どうぞお手柔らかにお願いします(笑)

編集部:
池田さんは、もう何年にも渡って、太極武藝館の稽古をビデオやカメラで撮り続けておられるわけですが、まず、カメラの目から観た武藝館の稽古がどのようなものなのか、ということからお伺いしていきたいのですが。


池田:
ひとことで言うと、動きが繊細で「絵になる」ということでしょうか。
上手い下手と言うことではなく、理屈抜きに奇麗なんですよ、皆さんの動きが。
よく表演などで見られる、動作を美しく見せているものとは全く本質が異なっていると思います。
この道場では、被写体が美しいというか、皆さんの動きに「軸」があるので、とても撮りやすいんです。
べつに、頼んでポーズをつけて貰っているワケじゃないんですけどね(笑)
特に師父の套路や散手の動きなどは、奇麗というか、ダイナミックで、繊細で、特に散手などを拝見していると、よくあそこであんなふうに人間が動けるものだなぁと、つくづく感心しますし、まるで一流のフィギュア・スケーターの演技を見ているような錯覚をしてしまいます。
相手の人も、フィギュアのパートナーのように、とても美しく舞って飛んで行きますしね(笑)

編集部:
そういえば、師父が対人訓練の模範として発勁している写真は、かつてHPがオープンした当初には、某巨大掲示板などでは、やれインチキだ、合成写真だ、などと言う人もチラホラ居られたと聞きましたが・・(笑)


池田:
ハハハ、そうでしたねー。
でも、HPを開いて一年半以上経った今では、もう、そう仰る方のほうが珍しくなりましたね。
常々師父も仰っているように、あれは、太極拳のチカラとしてはごく当たり前の現象なのですが、
何せ実際、毎回稽古で飛ばされていても、ウソだ!、あり得ない!、と思いたくなることもありますので・・(笑)
現に、「まるで手品みたいだ、化かされているみたいです」と言った新入門人も居られましたよね。

編集部:
そしたら師父が、「そうそう、化かすからね、コレを”化勁”っていうんですよ!」って・・
相手の人は、ホントに化かされたみたいにキョトンとしてましたね(笑)


池田:
あまり武術をご存知ない方がHPでそのような写真を見たら、こりゃインチキだと思われるのも無理からぬことかもしれません。
僕は、こうみえても門下生の端クレですが、発勁で飛ばされる度に新鮮な驚きがありますし、やっぱり実際問題、あのようなことは日常的に考えると、ちょっと有り得ないことだと思えてしまいますね。

編集部:
「有り得ない」というのは、どのようなことから、そう思われるのでしょうか?


池田:
最も驚かされるのは、一般的に重いモノを動かそうとする時のような「力んだチカラ」が一切来ないということですね。グイッ、というようなチカラの出し方が、そこにはまったく感じられないのです。
普通は、あれだけ飛ばされたり投げられたりするには、相当な力が必要だと思いますし、それが来ることも当然自覚できると思うんです。

編集部:
・・ということは、技をかけられる人にとっては、突然予期しないところでやってくる、非常に小さなチカラということになりますか?


池田:
その通りですね。「意外」という言葉がピッタリで、ほんの僅かな、数グラムから数十グラム程度のチカラでも、大きく崩されたり、飛ばされたりしてしまいます。
それも、崩されてから、ようやく崩されている自分を自覚できるような感じなのです。
崩されてから、なかなか体勢を立ち直せない、というのも特徴のひとつですね。

編集部:
そのような発勁写真を撮影するのは、結構むずかしいことなのでしょうか?


池田:
はい、けっこう難しいですね。
HPを製作するために、当初は高性能のデジタルカメラで連写で撮っていたのですが、最近ではビデオで撮ったものの中からコマをひろって写真に落とすことがほとんどです。

編集部:
デジカメでは、ダメなんですか?


池田:
デジカメでの連写ですと、大体ひとコマあたり 0.2〜0.3 秒で撮れるんですが、師父の発勁はそれだときちんと写ってくれないんです。
発勁している師父の姿も、飛んでいく人も、ひどくブレてしまって、最初はよく失敗しました。
それがビデオだと10倍くらいのスピードなので、ひとコマが 30分の1秒、つまり 0.03 秒ぐらいで撮れますから、なんとか写ルンですよ。それでもブレていることがありますけど。

編集部:
それって、「1秒の100分の3」ということですよね。
私は理数系ではないんですが、それってもしかして、ものすごい速さなのではないんですか?(笑)


池田:
西部劇でガンマンが早撃ちをしますよね。
あれが大体 0.2〜0.3 秒くらいなので、それだとデジカメの連写でもきちんと写ります(笑)
確か、ルパンの相棒の次元も、そのくらいの早さじゃなかったでしょうか?(笑)

編集部:
・・ということは、太極拳の発勁は次元大介やワイアット・アープの早撃ちよりも早い、と・・?(笑)


池田:
アハハ、まあ、理論的にはそういうことになるんでしょうか。
ひょっとすると太極拳は、OK牧場でも勝てるかもしれませんねー(笑)
でも、それだけじゃないんですよ。

編集部:
・・と、いいますと?


池田:
デジカメで師父の対練の技法を撮っていると、ここぞ、というところでシャッターが押せない時があって、タイミングがひどく遅れてしまうことがあるんです。

編集部:
つまり、それほどタイミングが取りにくい動きだということですね。


池田:
いえ、そうではありません。
タイミングは合っていても、シャッター自体が押せないんです。

編集部:
・・と、いいますと?


池田:
師父が相手に技をかける瞬間には、相手が拘束されて動けなくなりますよね。
その瞬間を撮ろうと思ってカメラを手にしている私にも、どうも同じチカラが働くみたいなんですよ。

編集部:
エーッ! ほーんとうですかぁー・・?


池田:
本当です。撮影している側としては、当然、出来るだけ師父の軸に合わせようとしていますから、直接技を掛けられる相手と、心身共にとても近い状態だと思うんです。相手は軸を合わせていないと何も対応が出来ませんからね。
それで、シャッターを押そうとすると、そのときに押せない。
師父が技をかけ終わってからでないと、シャッターを押せないんです。
そんなことが、度々ありました。

編集部:
そういえば、師父の示範を周りで見ている時にも、何らかの影響が身体に起こることがよくありますね。


池田:
ええ、そうですね。
場合によっては、見ているだけで同じように飛ばされてしまう人たちも居ますよね。

編集部:
・・アレは、いわゆる「気の作用」とか言うものなのでしょうか?
それとも、作用が起こる側に、何らかの「自己暗示」がはたらいているとか・・
「嗚呼!自分も飛んでみたいっ!」とか、
「よし、今日も師父のために飛ばなくっちゃ!」とか・・(爆笑)
一般の方は、きっとそんなふうにしているんじゃないかと、まず疑って考えてしまう方も居ると思うのですが。


池田:
心理的なものは分かりませんが、少なくとも師父は、どのような場合でも、「さあ、これから手を触れずに君を飛ばすよ」などと、相手に暗示を掛けるようなことは一切していませんね。
物理的な作用に関しては、バディ博士も首をかしげるほどですから、太極拳は目に見えるところの物理だけでは決して計ることができない、ということは言えると思います。
たとえば、某巨大掲示板で「トーテムポール」などと名付けられた「グラウンディング」という独自の稽古法がありますが、あんな棒立ちのままの格好でいて、押されないばかりか、そのあと相手があれだけ吹っ飛んでいくんですからね。
前後に開いた弓歩では、前方からだけではなく、後方からも腰や肩などを押させて飛ばしてしまいますし、左右に足を開いた馬歩の姿勢でも、前から押させても簡単に返してしまう。
また、押されるだけではなく、弓歩で前から数人に引っ張られても、反対に引き倒してしまいますし、素人ならずとも、ちょっと見には、物理的に非常に不思議な現象に思えます。
でも僕は、ここでは、もう何が起こっても、たいがいのことでは驚きませんよ(笑)
今では、皆さん、もう誰も驚いたりしませんよね。驚かれるのは見学の方くらいで・・。
門人も、最初は誰も出来ませんでしたが、今では師父のやることを正しく出来る人がたくさん増えてきていますし。
だから、コツコツやっていけば僕にだってもっとスゴイことが出来るはずだ、と思ってます(笑)

編集部:
ウチのドクター・バディは、どのようなことも、そこに何かが起こる限りはすべて「物理学」で解けるはずだし、地上はまだまだたくさんの未知の力の仕組みが存在するはずだ、と言ってますよね。


池田:
シャッターを押せないことが「気の作用」なのかどうかは、バディ博士に解明して頂くとして(笑)、
それと関連するのですが、ホイス・グレイシーさんなんかとも親交のある、イギリスの、或るブラジリアン柔術のアソシエーションにお送りしたビデオの中に、スゴイ映像があるんですよ。
(小声で)・・でも、こんなこと言っても良いんでしょうかね?(笑)

編集部:
(大声で)・・あ、どうぞ、どうぞ!
でも、内容によっては、破門になるくらいは覚悟した方が・・(笑)
『ウチは、♪風邪をひいたら「ルル」じゃなくて「破門」だゾォ!』と師父自ら仰いますし(笑)、帯や靴を道場に忘れたら破門、BBSに長期間書き込まなかったら破門、昔のアルファロメオの醍醐味が分からないヤツも破門、旨いサケの味が分からなくても破門だと・・・(爆笑)


池田:
そう言えば、師父はまったく風邪を引かれませんね。「玄門七不思議」のひとつに入れときましょう(笑)
僕はアルファにも乗っていましたし、サケなら、よく師父と、日本企業の息のかかっていない純然たるスコッチのシングルモルトや、ギネスのナマなんかをチビチビご一緒させて頂きます。まだ連れて行って頂いていない至高のリストランテや究極のおでん屋などもありますけど(笑)、ときどき風邪も引いてしまいますし、ウチのBBSにもあまり書き込むヒマもないので、こうなったら破門覚悟で言ってしまいましょう(笑)
・・実は、師父は「空勁」をよく使われるんです。

編集部:
・・ああ、はいはい、時々見せていただく、まったく手を触れずにヒトを飛ばすヤツですね。
門人にとっては、別に珍しくも何ともないですが・・・


池田:
そうサラッと言われると、次の言葉につまってしまいますが(笑)
一般的に「空勁」といわれるものは、日本の古武術で「遠当て」などといわれるような、離れていて気合いもろとも人を飛ばすような技術だと思われていますが、師父のものは、そのようなものを含めて、常に相手との「空間の制御」を行っている、内功武術の核心とでも言うべき技術だと、私は思うのですよ。

編集部:
フムフム・・さすがにカメラマン兼HP制作主任らしい観点ですね。
師父の散手の映像を見ていると、相手を打つ前に相手が崩れているので、確かにそう思えますね。


池田:
・・でしょう? そして、例のビデオでは、門人が10人くらい一列に並んで居るところを、雷声一発、手を全く触れずに、そのまま全員を同時に後方の壁まで吹っ飛ばしたり、あるいは、正式弟子の人たちが4,5人でイスに座った師父を取り囲んで、太極刀で思いっきり斬りつけていくんですが、斬りつけていった瞬間に、全員が同時に、刀を持ったまま後ろに吹っ飛ばされていくんです。
しかし、本当のホントの圧巻は、エンディングの「散手」ですけどね。
これは、もう・・・言ってしまいたいけど、ああ、やっぱり破門が怖くて言えない!!

編集部:
・・あ、そのDVD、去年の忘年会で見せて頂きました。
ホントに、編集も構成も音楽も、とても良くできていて、まるでハリウッドの映画みたいだったですねー! ご苦労様でした。


池田:
・・え? ・・あ、そうか、僕は残業で遅れて忘年会に参加したから、それを見てないんですね。
なーんだ、知ってるんじゃないですか! ヒトが悪いなあ・・(笑)

編集部:
忘年会の後で、「あのDVDは、販売してもらえないんですか?」とみんなに聞かれて、困りました。
他の拳法を学んで来られたKさんなどは、私が「残念ながら、アレは非売品です」とお答えしているのに、それから10分毎くらいに3回も同じことをリピートして尋ねられました(笑)
でも、エンディングの散手は未だ観ていませんが、オープニングの太極刀で斬りつけていくヤツは、あれこそインチキでは出来ませんね。


池田:
無理ですね、あんなこと、それこそインチキでは有り得ません。
僕はカメラマンの誇りを持ってハッキリと断言できますが、もしあんなことをヤラセで行おうとしたら、必ずボロが出ると思います。
舞台に上がってのライブ表演などでは、なんとか人の目はごまかせても、ビデオでじっくり編集している者の目は絶対にごまかせませんよ。

編集部:
・・と、いいますと?


池田:
師父のものは、何といっても、飛ばされている人が地面を強く蹴っていないのです。
細かくビデオ編集をしていると、相手が決して故意に飛んでいないことがよく分かるんです。
それは大きなポイントだと思います。
何しろ本人が地面を蹴っていないのに、浮くように吹っ飛んでいるんですから。
それも、後ろに飛ぶんですよ! 普通でも、後ろにあんなふうに飛ぶことは、そう簡単には出来ないですよ。
それに、もしヤラセだったら、1,2、の3、でタイミングを計らなきゃならないから、どうしても足で蹴って飛ぶしかないでしょうし、或いは、地面を蹴らなくて良いだけの功夫を持つ人が相手にならなければならないでしょう?
そこまで功夫のある人がインチキ先生の片棒を担いで、わざわざインチキ道場に月謝を払って、毎日夜中まで大汗かいて学んでいる必要はないですからねー。

編集部:
ホントにそうですね。


池田:
それに、何よりも、あれは僕が撮影したんですから、本物です(笑)
いや、冗談ではなくって、あのシーンは何度も撮り直しをさせて頂いたんですが、何度やっても、見事に技が決まるんです。一度として同じ飛び方はありませんし、一度として同じ襲い方ではありませんでした。
それに、師父を襲っていく方たちは、皆さん、飛ばされるときに叫び声が上がって、大汗をかいて、ハアハア息が上がって、その度にものすごく驚かれたり、ちょっと怯えた表情さえしているんですよ。
師父も本気の表情をされていて、その度に「遅いっ!もっと素速く、もっと本気で斬ってこい!」と大声で言われるんです。

編集部:
あのような、「気」の効果というんでしょうか・・そういうものは現実の物理的なチカラとして科学的に証明できるのでしょうか?


池田:
すでに、かなり以前から、いろいろな大学の研究室でも、研究されているようですね。
中でも、’84年の11月に筑波大学で開かれた、【日仏協力・筑波国際シンポジウム「科学技術と精神世界」】で、古武道の「遠当て」で、脳波分析が行われた結果が発表されたものは有名です。
これは、日本医大の藤木健夫講師が、武術家の青木宏之師範の頭部8ヶ所に電極をつけ、技をかけたとき発生する脳波を計算し、詳細に分析したものでしたね。
この研究で興味深かったのは、普段は静的な状況で発生するアルファ波が「遠当て」という動的な状況でも発生したという事実です。これは今後、高度な武術を解明していく際には見逃せないポイントになるかもしれません。
また、日本に限らず、欧米でも興味深く研究が続けられているようですが、何しろ研究対象に出来る人が少ないので、なかなか思うようにはかどらない、ということを聞いています。
もしウチの師父がこのような研究に協力されたら、とても面白いと思うのですが。

編集部:
いまだに、「インチキ」とか「非科学的」だと言って済ましてしまうような傾向もありますよね。
同じ内家拳の系統でも、全くそのようなことを信じない門派があると聞いたことがあります。
自分がこの目で見るまで信じられなかったり、科学的に証明されなければ、何でもかんでもインチキで済ますというのは、とても貧しいことだと思うのですが。


池田:
実は、手を触れずに相手をコントロールできる武術家はたくさん居られるんですよ。
有名なところでは、合気道では開祖の植芝盛平先生をはじめ、その高弟の砂泊先生、そのまた高弟の寺田先生もそうですし、五十歳から合気道を始めて合気道本部師範になり、拳聖と称された太気拳の澤井先生にもマンツーマンで指導を受けて免許皆伝になった西野皓三先生も、新体道の創始者・青木宏之先生も、みなさんそんなことは軽〜くやってしまって居られますよね。

編集部:
ほお・・空勁が出来る方は、そんなにたくさんいらっしゃるんですか? 
まったく勉強不足でお恥ずかしい限りですが、特に、あの西野皓三先生が合気道の本部師範で、太気拳の澤井先生からも免許皆伝を受けていた、などということは今初めて知りました。


池田:
武術専門誌などにも何故かあまり紹介されておらず、一般にはほとんど知られていないようですね。
かつて行われていた極真空手と太気拳の組手練習会などでは、西野先生は澤井先生と共に同席されて居られ、実際に組手もやられたりしているのですが。
澤井先生ご自身は、「西野さんには四年で免許を与えた。その天分を認めた為である。」と仰ってますね。
「西野さんは、私が死んだ後に太気拳の真髄を伝えて行ける数少ない高弟の一人だ」とも明言しておられます。

編集部:
・・・なるほど。
と、いうことは西野氏の「空勁」も、武術の真髄や本質に関わっているものだということになりますね。


池田:
ええ、そういうことになると思います。
実は「意拳」にも、空勁が存在するんですよ。

編集部:
・・えぇーっ? あの意拳にも、そのようなものが存在するんですか?!


池田:
はい。1930年代のオウコウサイの門下に、尤彭煕(ユウ・ホウキ:you-peng-xi )という人が居たのですが、その方は「神拳尤」と称された達人として有名な方で、站椿功を追求した結果、非常に遠隔感応能力が開発され、彼やその弟子は、相手が攻めようとする意識の時間と空間を、遠く離れた状態で感じ取ることが出来たそうです。
尤彭煕さんは、弟子との間に壁を隔てて立ち、互いに姿が見えない状態で、一方が打ち込むともう一方が即座に反応し、両者のタイミングは、まるで互いに見えているような、とてもリアルなものだったといいます。
その模様を記録したビデオテープもあるそうですよ。

編集部:
・・かの意拳には「空勁の達人」が存在していた! うーん、これは私にとっては驚きですね。


池田:
武術を極めるような質を持った人は、多かれ少なかれ、誰でも「空勁」の経験をしていると思うんですよ。
突いてきた拳を避けようとしたら相手が勝手に崩れたとか、まだ攻撃をしていないのに相手がふらついて簡単に打ち込めたとか、逆に、何もしていないのに何故か相手が打ち込めないとか・・・
或いはもっと単純に、「スキが無い」というのも、「空勁」の技法や作用と考えることもできると思います。
そのような経験は、上級者になればなるほど、上達の度合いと比例して増えていくはずです。
それが出来ない人や分からない人がインチキだと決めつけたがるのは、ある意味で無理からぬ事とも思えますが。
また、空勁はどうしても派手なパフォーマンスに見えるので、「いかにもクサイ」という感じに受け取られることが多いのも、それが技術としてきちんと認められていかない理由のひとつかもしれません。

編集部:
そういえば、かつてウチの「一般クラス」の稽古で、試験的に「空勁」の段階訓練が紹介されたことがありましたね。
私も参加していたのですが、その日は、稽古に参加していた全員が、何らかの感触を得たと思いますし、たとえ僅かでも、誰もが「空勁」を自分で行うことを経験できたと思うのです。


池田:
ええ、私も経験しましたが、とてもリアルでしたね。
知らない間に、相手が吹っ飛んだり崩れたりしてしまって(笑)
お互いにビックリしている人たちも結構居ましたし。
普段はただ見ている側だったのですが、自分で出来てしまうと、ホントにビックリです。

編集部:
向かい合っているお互いが、同時に吹っ飛び合っている組もありましたね。
あのような稽古は、空勁というものが、実は武術の学習体系の中にきちんと確立されて存在する、ということの証明になると思うのですが。


池田:
そうだと思います。あの日は「空勁」の練習をするなどとは、一切聞いていませんでした。
それらの稽古が終わってから、師父はハッキリと、
「私は皆さんに暗示をかけるようなことは一切言わなかったし、行わなかった。ただこうして、こうやってみましょうと指導しただけです。その点を思い出してください。これは純粋に皆さんから出ているチカラであり、誰にでも行うことが可能な、武術としての学習体系なのです」と仰っていました。
つまり、これはきちんとした稽古なんだと。

編集部:
その時に出来た人は、皆、とても驚いていましたが、
これは神秘ということで片づけられたり、インチキと呼ばれるような如何わしいものじゃないんだ、
武術としての確かな「学習システム」なんだ、という実感がみんなの中に生まれましたね。


池田:
そうですね。
空勁というのは、ただ離れて相手を飛ばすといったような技法ではなく、
本来は散手で打ち合っている時にもずっと用いられ続けている、ごく普通の勁(チカラ)のひとつなんだと、
師父から伺った事があります。
今回のHPリニューアルでは、「科学する」のページトップで、コマ送り動画でそのような勁を初めて掲載しましたが、あれなどは、まさしくその空勁に属するものと言えるものだと思いますね。

編集部:
他に、推手を撮影しているときなどでは、どうなのでしょうか?


池田:
まったく同じことですね。
推手を撮ったものを細かくコマ送りで見ても、柔らかい身体で、いわゆる力んだ「拙力」を全く使っていないことが分かります。それと、やはり足を引きずったり踏んだりしてはいませんね。
・・というか、「太極拳なんだからヤワラカイのは当たり前・・」ということなんでしょうね。
ウチは、当世風「退却ダマシイ」などは、誰も持ち合わせていないでしょうけど・・(爆笑)

編集部:
♪ツッタカター、ツッタカター・・や〜わらかせん・・


池田:
・・あ、ヒトの話は最後まで聞いて下さい・・(爆笑)
まあ(笑)、あとは、膝が決して落下しないことも、また、膝から下を脱力したように振らないのも特徴です。
とにかく、体幹部が非常に柔らかくて、足や腕がものすごく軽く使われているんですよ。
動きの量も、ちょっと見た目でも門人の皆さんの5倍や10倍は動いているように感じますね。
それなのに、いや、それだからなのでしょうが、相手は全く予想しないところに吹っ飛んでいきます。

編集部:
それは、ビデオで観ていても、次にこっちに崩されると予測できないのですか?


池田:
そうです。全く予想できない方向に崩されていきます。
ビデオで観ていると、むしろ予想とは反対の方向に飛ばされていますね。
観ていてこれですから、実際に相手をしている人は、ほとんど全く予想できない状態ではないでしょうか。

編集部:
師父は、「これぞ順身(太極拳的身体)の為せるワザ」と言われていますが・・


池田:
最近師父が、推手や散手に於ける作用の物理的考察を、バディ先生と一緒に始められておられますが・・

編集部:
えっ、そうなんですかー! それは楽しみですね。


池田:
・・おっと、また口が滑ってしまった。これはまだ秘密だったのかな?

編集部:
どうぞ、どうぞ、ご遠慮なくツルツル滑って下さい(笑)


池田:
えーっと・・僕は英語がダメなので、お二人が話しておられることは、どうもチンプンカンプンで・・

編集部:
上手く逃げましたねー(笑)
でも、せっかくですから、最後に、何かサワリだけでもひとつ・・
いつも太極武藝館のホームページを楽しみにご覧頂いている、全国のファンの皆さんのためにも。


池田:
まいったなぁ・・(笑)
じゃあ、ただの聞きかじりですが、ひとつには「数学」の概念を使っておられるという話です。

編集部:
数学・・ですか?
それは、ブンイチ出身の私には、ますます解せませんね(笑)


池田:
僕は、イマイチの出身なので(笑)、ソロバンの玉さえ上手くはじけませんが、
何しろ、そんなお話をチラッと聞いたんですよ。
お話は数学から始まったようなのですが、ひょっとすると機械工学のほうが近いかもしれません・・・

編集部:
ますますワッカリマセンネー・・もう私にはお手上げです。
まあ、取り敢えず、今日はどうもありがとうございました(笑)
またその辺りは、後日改めて、じっくりとインタビューさせて頂きたいと思います。


池田:
どうもありがとうございました。
・・ところで、今日しゃべったことは、全部HPに載っちゃうんでしょうか?
いろんなこと言いましたけど、破門にならないでしょうかね、僕は・・・

編集部:
・・さあ? 私は機械工学もチンプン&カンプンなので、そのようなことは測りかねますが・・(笑)


(了)

(2006年5月20日掲載)

[Topへ]


Copyright (C) 2004-2010 Taikyoku Bugeikan. All rights reserved.