太極武藝館


門下生の声



井上 節夫

 Setsuo Inoue
武藝クラス所属
1956年 東京都生れ
2001年6月 入門
直接打撃制空手1年・水泳7年・野球15年



 井上さんにとって、われらが師父は、ようやく巡り会えた憧れのスーパースター。
 幼い頃からの夢や憧れを大切に育んで、大人になってもその純粋さを忘れない、大変魅力のある、いつも輝いている門人です。
「こんなスゴイこと、いい加減な気持ちじゃ出来ないぞ!」という気持ちで稽古に臨まれ、お仕事に忙殺されながらも着実に上達されており、「十年後は拝師候補生だ!」と、ますます意気盛んです。
50才を過ぎてからボール乗りを始めても、あっという間に上に立ててしまう努力家の井上さんは、現在は職場のある大阪から掛川まで新幹線で通ってこられる日々を続けておられます。



編集部:  
井上さんもウチに入って三年が過ぎて、だんだん太極武藝館の顔になってきましたね?


井上:  
(笑)まだまだ、全然ダメですけどね・・・
特に今年は仕事で稽古に参加する回数が少ないんで、もっと稽古したいです。
本当は、自分できちんと稽古出来ればいいんですけど・・・
先生が、中国に行くと野良仕事やってるおばさんが、仕事の合間にほんのちょっとの套路をやったりする、ああいうのがすごい、って仰ってたんで、私も仕事の合間に寸暇を見つけて稽古しています。


編集部:  
それが大事ですね。常に意識してるというか、気にしている・・・


井上:  
それは気にしてますね! 特に「歩くこと」はいつも気にしながら歩いてます。
だから、わりと最近は意識しないでも、多少は太極拳をやっている人の歩き方になってるかなあ、なんて、自分で自己満足していますけど。

編集部: 
やっていくうちに、自分でハッとする時がありますよね。


井上:  
そうですね、自然にできてるなあと思うような・・
それとやっぱり、そういう歩き方をしてるんで、足音がしない!
一番最初に気がついたのは、もうずいぶん前です。やたらと他の人の階段上る足音がうるさく聞こえるんですね。何であんなにバタバタ歩くんだろうって。それで自分が前と違うんだなって、わかったんですよ。
最初のうちは一生懸命足音をたてないようにやってたんですけど、意識していながらもやっぱり忘れるじゃないですか。で、ふっと気がつくと、他人と比べて自分は音がしていないんですよ。
「あれっ、音がしない」って思ってね。
もちろんいつも意識してますけどね、無意識で階段を上るっていうのは10回のうち1回ぐらいしかないですね。9回はきちんと意識して上ったり降りたりしていますよ。


編集部: 
すごい!、「功夫」ですね!


井上:  
そうですね(笑)・・・ただ、難しいのは、やはり道場に来て先生の形を見ないと、やってることが正しいのか、正しくないのか、わからなくなるんですよね。
で、先生のやってられるのを見ると、あっ、ちょっと違ってたかな・・なんて、軌道修正して・・ 


編集部:  
そういうことは、よくありますね。


井上:  
普段から、そういうことをやってるのは、とても楽しいですね。
私は太極拳をやるようになって、何がすごいかって、何が変わったかって、そういうことだと思うんです。ここに来て稽古をするのも、もちろん楽しいんですけど、日頃からそういう事を心掛けてやるようになったっていうのがとても楽しい。


編集部:  
全てが、つながってますからね。


井上:  
例えば、最近「足が速くなった」って言われるんですよ。
私は、先生と同学年ですから、もう50歳なんですけどね。
この間30代の人と競走して、勝っちゃったんですよ! たぶん十年前だったら負けてましたね。


編集部:  
その時は何を意識されたんですか?


井上:  
ただがむしゃらに力んで走るんじゃなくて、柔らかい走りというか、それを心掛けていただけです。
もちろん競走ですから、負けないぞ、って気持ちはあるんですけど。
それよりもバラバラの走り方をしたら、折角少し身に着いてきたものが崩れちゃうといやなんで、
柔らかさと、そういうものの複合だけで走ったら、何と勝ってしまって。


編集部:  
それはすごいですね!
ところで、以前はフルコンのカラテ道場に通っていらしたんですよね?


井上:  
あそこに入ったのは、べつに空手をやりたかったわけじゃなくて、私はどちらかと言うと気功をやりたかったんですよ。空手をやると、呼吸法を教えて貰えると思ってたんです。
でも、入ったら全然そういうことは無くて、こう「クォーッ、クァーッ」っていう、「息吹き」というものを教えてもらって、「何だこれ?」と思っていました。
それで、基本の後はいきなり組み手、しかもフルコンタクトですから、いきなりボコボコボコボコ殴りあい蹴りあいで・・痛いじゃないですか!(笑)
私の年齢の人間がですね、ああいう空手道場へ行って、10代や20代の連中と殴りあい蹴りあいしたって、そりゃあ、いきなりやったってかなう訳はないですよ。
でも、僕も負けず嫌いなもんで、思いきりやるもんで、ボコボコにされちゃうんですよね。
それで、これはちょっと、と思って・・・
でも、すぐ辞めるのも嫌だったんで、空手の合宿にも行きましたけどね。


編集部:  
それじゃ、武術がやりたいとか、格闘技がやりたいとか、そういうことを求めていたわけじゃないんですね?


井上:  
そういうものは求めてなかったですね。
もともと「気功」で・・
要するに、マンガのドラゴンボールがあるじゃないですか(笑)
「ダ−!ヤー!」って、ああいうのができたらいいなあって・・
まあそれは冗談ですけど・・・
やっぱり「気」というものに非常に興味がありまして、自分で本で勉強して、自己流で何ヶ月かやったことがあるんですよ、本に書いてある通りに。
でも、本を読んでも感覚はわからないじゃないですか。
それでも、なんとなくモアモア〜っというものが感じられるようになって(笑)
でも、自分じゃわかんないんで空手に入ったんです。あそこの○○先生は、やっぱり凄い人だって思いますしね。
ところが、入ったら全然・・・
何も、そこの空手の悪口を言うわけじゃないんですけど、あれはあれで、やってる人はいいと思いますけど、言ってみれば学生のスポーツ部みたいな感覚ですよね。
ただガムシャラにやって、その中でレベルが上がっていく人は上がっていくし、そうじゃない者は駄目になっていくし。そしてやっぱりパワーとスピード! 
年輩でやってる方もいらっしゃいました。
もちろん凄い人もいましたが、でもやっぱり無理なんですよ。


編集部: 
使っているチカラが違うんでしょうか。


井上:  
まったく違いますね。


編集部: 
その頃は、普段の生活で何か「意識」されようということはなかったんですか?


井上:  
それは無かったですね。ぜんぜん無いです。
やってる事が、ぜんぜん違いますね。
先生には申し上げたんですけど、うちの女房にこの道場の話をしたら、
「あなたが探していたものが見つかったじゃない!」って言ったんですよ。
で、「えっ、そうなの?」って、自分としては「え、オレ、そうなの?」って感じで、
私は意識していないけど、女房が言ったんですよね。
「巡り会ったんじゃないか!」って、自分でも不思議なんですけど・・・

実は、私はマニアックと言えるくらいの時代劇ファンなんですよ。
昔の時代劇!チャンバラ映画ですね(笑)
小学校の時は、もう、こればっかり見てたんですよ。
その中で、剣の達人たちが居るわけですよ。
そうすると、もう剣どころか、指先ひとつでヒョイヒョイやっつけるわけですよ、
・・映画の中でね!
で、何十人もの敵を、たったひとりで、ポン、ポン、とやっつけちゃうんですよ。
つまり超人ですよ、超人!!(笑)
けれども、それはやっぱり、映画の中での話だと思ってたんですね。
でも、こちらで先生がやってるのを見たら、
「あ、映画の中でのことやってる!」(爆笑)
ホントに驚きですね!、そういうものがあるとは・・・

子供の頃から憧れてましたから。
子供って、スーパースターに憧れるじゃないですか。
だから、ずっとそういうものを持ち続けていたんですね。
それが、ここで先生を見たときに、「ああーっ、これだあ!」って・・・


編集部:
やっぱり、「巡り会った!」というのが実感でしょうね。



井上:
そうですね。ですから空手で見たものっていうのは、「日常的なもの」っていうんでしょうか。
先生がよく「武術は本来、非日常的なものだ」っておっしゃいますけど、この「非日常」と言うのが
私が幼い頃から夢に描いていたものなんですよね。


編集部:
そこのカラテでは、武術的にどんな感じでしたか?



井上:  
そこで学んでいる方には失礼ですけど、正直言って「こんなもんなのかなあ・・・?」っていうのはありましたね。
こんなもんかって言ったって、やっぱり黒帯二段、三段、四段でやってる人はすごいと思いますよ、もちろん。
すごくみんな強くてね。見た目も強そうだったし、恐そうだったし・・・(笑)
でも・・・ウーン、何て言いますかね・・「超人」じゃないんですよね。
スーパースターじゃないんですよ・・・確かに強いんですけどね。
・・例えば、私の出た中学は、代々、剣道がものすごく強いんですよ。
当時、浅利っていうすごい先生が居てね、満州帰り、軍隊帰りで、自分は千葉周作の先生の浅利又七郎の子孫だって言ってました。その人が剣道の達人で恐いわけですよ。
竹刀持って「ヤッ、ヤッー!」ってやってるわけです。みんな強かったですよ。
でも、その強さは「俊敏さ」を主とした強さだったような気がします。
その先生ともやったことがあるんですけどね、こっちが動く前に、パーン、コテ−!ってやられちゃうんですよ。
うわー、すごいなーって思いましたけど、でも、結局それだけなんですよね。
ウチの先生みたいに「見えない」わけじゃなくて、「早い」んですよね。
それは、決して私に見えていないわけじゃないんですよ。


編集部:  
小さい頃から、そういうものに憧れてたんですか?


井上:  
憧れてましたねえ。
私は、ちょうど少年マンガがものすごいたくさん出てきた時代なので、当時の少年マンガっていうのは、まずは柔道でしたね。熱血柔道マンガでね。だから子供の頃は柔道に憧れましたよ。
柔道やると大男を簡単にポイポイ投げられるんだ、と思って、柔道やりたいなって思っていて、で、その後に野球マンガがものすごい勢いで流行って、それで野球少年になったんですよ。


編集部:  
影響されやすかったんですね(笑)


井上:  
はい、影響されやすいんです(笑)
あと、空手とかね・・・
でもやっぱ、柔道マンガと野球マンガが多かったですね。
あとは、時代物マンガですよね。そこには達人が出てくるわけです。
それこそ、ウチの先生といっしょですよ。
ハシゴで町方の「捕り方」が、うわーっと、御用だ!御用だ!って攻め寄せて来る。
するとその達人は、ハシゴの片っぽをもってフ−ッてやると、みんなパタパターって倒れるんです。


編集部:  
(笑)すると奥さんが言われてたように、求めていたものが本当にここにあったというわけですね? 


井上: 
そうですね、求めていたのは、武術的なことよりも、むしろ「身体の使い方」ですね。
子供の頃読んだ少年マンガで、白戸三平の『サスケ』とか、いろんなマンガの中で、少年忍者たちが修行をするわけですよ。
そうすると、いつか先生がおっしゃったように、濡れた半紙の上を歩くんですよ。
マンガの中に、実際、そういうシーンが出てくるんですよ。
・・・で、やっぱりそれをやりましたね!(笑)


編集部: 
濡れた半紙を敷いて?(笑)


井上:  
そう。濡れた「新聞紙」でしたけどね、ぐちゃぐちゃになっちゃってね!(爆笑)
「みんな忍者になるために修行しよう!」ってね、小学校3、4年生位ですかね。
忍者になりたくて修行しましたよ。
で、次は空手マンガ読んで、空手家になりたくてね、石たたいてガンガン鍛えたりね。


編集部:
達人になりたかったんですね?!


井上:
それは、もう、憧れですよね。
忍者っていうのは修行に明け暮れるから、忍び足で音をたてずに歩くってね。
子供の頃そういうのをインプットされて、長い間ずっとブランクがあって、
ここの道場に来たら、そういうものが現実的に存在していたというわけで・・・
うーん、これはやっぱすごい! と・・(笑)
大袈裟な話じゃなく、やっぱり人生が、生き方まで変わりますよね。これは本当です。
他人にそういう話すると、そんな大袈裟な・・って言うと思いますけど。
やっぱり変わりますよ。これを見たら人生変わっちゃいますよ。


編集部: 
具体的にご自分の生き方、考え方の変化にはどんなことがありますか?   


井上:
ここで太極拳をやってから一番変わったのは、当然身体のことには興味が湧いてくるんですけど、
それ以外にいろんなことに興味が出てきて、人生が活性化したって言うんですかね。
身体だけじゃなくて、精神的な部分までいろいろ活性化しているような気がします。


編集部: 
つまり、前向きに人生を生きることができる、ってことですよね。


井上:
そうですね。前向きですね。
それと、もうひとつは、ちょっと穏やかになった・・・
私は人と争う事がものすごく多かったんですよ。ものすごく。
仕事でも、もう、しょっちゅう喧嘩ばかりしてましたしね。


編集部:
そんなふうには見えないですけど。


井上:
いやいやすごいんですよ!(笑) 何でもかんでも喧嘩腰でやってましたね。
でも今は・・・普通、年とったら穏やかになるって言うじゃないですか。
それとは少し違うんです。ちょっとソフトになったっていうよりも、むしろもうちょっと見方を変えられるようになったと言いますか・・そういう感じがしますね。


編集部:
ご自分をきちんと観れるようになったと・・・


井上:  
そうかもしれないですね。
第三者的な目で、自分自身を観る! 
そんなクセがついたっていうか、そうやって自分が変わっていくのが楽しいですね。
明らかに変わってきてますからね。
しかもこれだけ顕著に変わってくると、そりゃあやっぱり、人間おもしろいですよ。
まあ、稽古をやればやるほど、そんな風にどんどんどんどん変化してくる。
やればやるほど上達する、っていうほど太極拳は甘くないですけど、でもやっぱり、明らかに三年前とは変わってますからね。
師父が「太極拳は、年を取ればとるほど強くなるんだ!」っておっしゃいますよね。
ですから、私も別にこの1、2年ですごくうまくならなくてもね、10年でも20年でも、ずっと続けて行かれれば、と思っています。


編集部:
長い目で自分を観れるようになるというのも、太極拳で学んだ「考え方」が、自分の生活に大きく反影してるということですね。


井上:  
もう、仕事にしろ、普段の生活にしろ、すっごく反映してますね。
僕なんか野球もやってますけど、そういうものの全てが、ベースが太極拳になっちゃっているんです(笑) 何でもかんでも、全部そうですね。それが楽しいというか・・・


編集部:
つまり、「ハマッちゃった!」という・・?


井上:  
そうですね!(笑) 
まあ、もっと早く巡り会いたかったと思う反面、でも、これっていうのはひとつの運命みたいなもんなんで、この年齢で巡り会えたのが、いちばん良かったのかなとも思います。
もしかすると、若い時に巡り会っても、全然興味を示さなかったんじゃないか、とも思いますしね。
だから、やっぱり、大袈裟な話ですけど「運命」なのかなと・・・

なんと言っても、ウチの先生のようなスゴイ人に巡り会えるというのは、これはものすごくラッキーなことですよ!
これは私個人の意見ですが、本当にそう思います。やればやるほどそう思えるんですよね。
なんて自分はツイテいたんだろう!って・・・
だから私は、自分だけじゃなくって、ここに来てる人たちって、みんな、すごくラッキーな人たちだなあって思いますよ。

この三年で、太極拳だけじゃなくて、武術の本や雑誌類をずいぶんむさぼり読みましたけど・・・
私は結構読書家なんですよ。もう、武術の本だけで20冊以上は読んでるんじゃないですかね。
それで、そのテの雑誌も、しょっちゅう読んでるんですが、読めば読むほど、自分のやってることがすごいなと思うんです・・・
いやー、もう、こんなことやってる道場って、そんなには無いんじゃないですかね!
いわゆる「有名な先生」っていうのは、巷にいっぱいおられますよね。  
まあ、各々が確かにご立派な人なんでしょうけど。
いつか先生のおっしゃってた○○さんでしたか? あの方のビデオもありましたけど、
まあ普通の人が見たら、こりゃすごいな、って思うでしょうけどね。
確かにすごいなと思いますけど、「オレはもっとすごいこと知ってるぞ!」・・って(笑)
でも、これが「本音」ですよね!
ああ、これ、すごいなって思っても、我々はもっとすごいコトを、毎回、目の前で見てるよな!
・・って言いたくなってしまってね(笑)
でもこれは、本当に、誰もがそう思うと思うんですよ、ウチの先生を・・アレを見た人は!
・・・すごい有名な人のビデオも見るんですよ。
沖縄空手界でも、トップのほうにいる人っていうものなんかも。
けどね、それはたしかにすごい人ですけど、
でも、先生の「アレ」を目の当たりにしてしまったら・・・(笑)
ウチの先生が、どれだけすごい人かというのが、つくづく分かりますね。
まあ、そういう方がやってることを見ると、反対に自分たちのやってることの中身が分かって、
ものすごく嬉しくなりますよね。


編集部:  
私も井上さんと同様、個人的には、そのように思います(笑)


井上:  
せっかく、こういうすごい先生に教えてもらってるんだから、一生懸命やらなきゃなって思います。
せっかく、こんなすごい事教えてもらってるんだから、いい加減な気持ちじゃできないぞ、ってね。
最近仕事が忙しくて、なかなか稽古に来れなくなっちゃってるんで、なおさら、自分ではやれる限りの事をやらなきゃいけない、ってね。 
・・と言いながらも、今日は疲れたからビール飲んで早く寝よう!っていうのはありますけど(笑)
でもね、ふと気がつくと、仕事場でいつの間にか套路をやっていたりも・・・(笑)
よくやるんですよ!
仕事場の人間は、もう誰も見向きもしませんけど・・(笑)


編集部:
楽しいお話を、どうも有り難うございました。
どうぞ、これからも頑張って下さい!

(了)

(2005年3月27日掲載)

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