太極武藝館


門下生の声

桑原 伊佐夫

 Isao Kuwabara
拳學研究會所属
1965年 静岡県生れ
2003年11月 入門
伝統空手 3年、柔道 3年、
直接打撃制空手10年、
キックボクシング等、様々な武道や格闘技を遍歴。


 様々な武術を20年近くも修行して来られた桑原さんは、洋玄師父が指導される本物の武術に魅せられ、カラテ道場の指導員を辞して太極武藝館に入門されました。
  『自分の武術歴は、去年、太極武藝館に入門してから始まりました。
       それまでのものは、すべてスポーツに過ぎませんでした・・・』
と、おっしゃる桑原さんは、武術の本質を求めて、入門間もなく目の病気で入院した時にも、同室の患者さんが寝静まってからベッドの上で站椿をするという徹底ぶり!
 ご本人は「森の石松」で知られる森町出身で、ちょっと石松兄イを彷彿とするところもあり、このインタヴューでも、知る人ぞ知る、抱腹絶倒の「クワバラ節」がトコロ狭しと発勁されました!!



編集部: 
太極武藝館に来るまで何も運動や武道をやってこなかった人、他のスポーツをやってきた人、そして桑原さんのように他の武道をやってきた方とでは、ここに入門してからのモノの見方や感じ方が微妙に違うのではないかと思いまして、今日はその辺りのお話をお聞きできたらと思うのですが・・・


桑原:
初めてこちらで見学させてもらった時に、僕は、先生しか見ていなかったんですね・・
ずっと、先生の動きしか見ていませんでした。
そして、その歩き方、そのたたずまいを見て、とても怖かったんです。
すごい殺気があったんで・・・

今まで僕は、空手以外にも柔道とかキックボクシングをやっきて・・
全部で15、6年にもなりますか・・
強い人はたくさん居たんですが、先生のように殺気のある人は今まで見たことがなかったので、
とにかく怖かったですよ。
でも、先生だけを見てると、ものすごい殺気で怖いんだけど、他の門下生の人を見ると和気相合とやってるので、一体ここはどういう練習してるんだろう?、というのが正直な想いでしたね。
そのギャップが大きかったので・・・
皆さん、ニコニコしたままで、ゴロゴロ転がされたりしていて。
いったい何なんだろうか、ここの稽古は??・・・って(笑)
そういうことをやっていれば、あの先生みたいになれるのかなって・・・

実は、あのとき見学に来て、先生の姿を見た瞬間、もう、帰ろうかな、って思ったんですよ。
怖くて、あまりにも怖くて・・これは絶対殺されちゃう、っていうくらい怖かったです。


編集部:
そういう感覚は、ある程度本格的に武術をやってきた人でないと分からないのでしょうね。


桑原:
そうですね。 実際、試合などで対峙した時に、ちょっと強いかな、とか、かなわないかな、っていうのはあるけど、見学に来て、後ろを向いてる先生を見ているだけで「殺されちゃう」と思うっていうか、そのくらい殺気のある人って、今まで出会ったことがなかったんですよ・・
ホントに怖かったっスねぇ・・・

先生が道場のどこにいても・・
ぐるぐる皆さんの稽古を見て廻っておられて、僕が座っている見学席の反対側の端っこの方に居られても、私に感じられるその殺気が全然とぎれないんですよねー。
それはもしかすると「殺気」じゃなくて「オーラ」とかいうものかもしれませんが、
とにかく、そこに出てるものがものすごいんですよ。
・・・そんな人を見たことがなかったんです。

空手のある流派の館長と実際に会ってお話させてもらったことがあるんですが、もちろんあの方はすごく強いと思うんですが、円山先生のような「武術的な怖さ」は、まるで感じなかったです。
・・・それが初めてここに来た時の正直な印象でしたね。

でも、稽古が終わって、「どうでしたか?」って、ニコニコした顔の先生に聞かれた時には、
もう、その殺気がぜーんぜん無いんですよ。
驚きましたねー! あれー?、いったい何なんだろう?、この人は?・・っていう感じで・・
・・・もう、ほんと、「すごい!」の一言です。


編集部:
やはり、ここに入門できてよかった、と・・?


桑原:
もちろんですよ!! 
武術を、何にも考えずにやっていれば、汗かいて、それで運動してよかったな!・・ということで
済むと思うんですけども、十何年もいろいろやってくると、疑問が出て来るんです。
こう突いたら良いとか、こう受けたら良いとか、いろんな大きな疑問がいっぱいあったんですけど、最初に見学させてもらったときに、先生の佇まいとか、先生の仰ってることを聞いている中で、
それまでどうすればいいんだろう、って思っていた事への答えが、見学している間に、ポン、ポン、ポン、って、そこに出て来るんですよ・・


編集部:
それはすごいですね!


桑原:
要はたまたま先生が「太極拳」を極められた人だったというだけで、別に何でも良かったんですね、言い方は悪いですが、太極拳でも空手でも柔道でも、僕の武術への疑問の答えがポンポンって出ているものであれば何でも良かったんです。
「あ、これが答えだ!」ってストレートに感じられたのが、ここでやろうと決めた理由のひとつですね。


編集部:
十年以上もたまっていた疑問が、たった一回、見学しただけで解けた・・!?


桑原:
「あ、これをやりゃあいいんだ!」っていう・・・実に簡単明瞭ですよね。
「これをやりゃあ、俺は達人になれる!!」って(爆笑)


編集部: 
以前居られた空手道場では、どういう稽古をなさっていたのですか?


桑原:
白帯で入った時から、準備体操やって、基本稽古で突きとか蹴りをやって、あとは、型、移動稽古をやって、ミット叩いたり、で、スパーリング組手をして・・それで終わり、ですね。

結局、身体をデカくしたほうが強いんですよ。
身体に筋肉をつけて、足を居着かせて、殴りっこして、手数のある人のほうが勝ちになるので、
20代と30代と40代でやったら、やっぱり、若くてスタミナのある方が勝ちになるわけです。

人は誰でも歳をとっていくじゃないですか・・
それで、これは違うぞ、このままでは駄目だぞ、って考え始めたんです。
僕は、よく『秘伝』なんかの雑誌に“達人”と言われるような人たちがたくさん登場してるけど、「俺、こんなの、一発で倒せるよ!」なんて自惚れて思ってたんです。
でも、先生のおかげで、本物がこの世に現実に存在しているんだ、怖いモノがあるんだ、ということがわかって、とても嬉しかったですね。

僕は真面目に稽古していることが、強くなる一番の近道だと思ってたんですが、
それでは、「何を真面目に稽古すれば良いのか?」ということが大きな問題でした。
間違った事をいくら真面目に稽古していても強くならないというのが、だんだん分かってきて、
何か違う!、違う!、違う!って思いながら稽古して来て、さっき言ったような答えをようやく見つけたんです。
「あっ、これだ!」ってね。
うーん・・・でも、「本物」がこんなに難しいものだとは思わなかった!!(爆笑)


編集部:
(笑)本当に武術がお好きなんですね。
いちばん初めは、なぜ武術を始められたんですか? 
ずいぶん若い頃からですよね?


桑原:
・・とにかく、強くなりたいって思ったんです。
最初は、ご存じ、アントニオ猪木ですよ!(爆笑)
アントニオ猪木を見て、自分もこうなりたいなって・・ハッハッハ・・単純ですよね(笑)
小学校のときは、プロレスラーが世界で一番強いんだって思ってました・・
うちの家族はみんな、親父も爺ちゃんもそうなんですけど、腰がよくないので、絶対そういうことはやっちゃいけないと、小さい頃から言われてて・・でも、どうしてもやりたかったので、今は我慢するから、高校性になったら格闘技やらせてくれって頼んで、それで始めたのが柔道だったんですよ。
でも、思うように強くならないし、間違ったことを始めちゃったかなって・・
やっぱり柔道は、僕に向いてなかったんですね。
それからヘルニアになっちゃって・・・
ようやく身体が動くようになってから、近くの体育館で寸止め空手をやってました。
その時は「何やってるんだろう?」って思って入って行って、「僕も入れてください!」って言って、それで寸止め空手を始めたんです。(笑)


編集部:
直接打撃制(フルコンタクト)の空手に入門したのは?


桑原:
それから後のことですね。
近くに道場ができたので、「じゃあ、やってみようかな」って・・・
でも、やっぱり、強かったですよ、みんな。
その時点では、こりゃーかなわないなー、って思いました。


編集部:
桑原さんが強くなれるというものが、そこにはあったんですか? 


桑原:
入門した時には、「絶対これが一番強い!」と思いました。
まあ、そうじゃなくっちゃ、入んないですよね・・・


編集部:
「これが最強の空手だ!」という実感が・・・


桑原:
そうそう。さすがはあの○○先生が創始した空手だって。
門下生もみんな、世界で一番強いのはウチの空手だって言い切っていて。
・・・確かにみんな強かったですよ。 
でもね、頑張ればなんとかなるかなって、頑張ればコイツぐらいにはなれそうだな、とか、
あと1年ぐらいしたらコイツを倒せるかなって、見当がつく。
・・・だけど、やっぱり、さっき言ったような「疑問」が出て来るんですよ。
ホントにこれでいいのかなっていう、ほんとに足の位置がこうでいいのかな、ほんとに拳をこう握ってていいのかなっていう、手刀とかいろんな部位があるのに、なんで拳だけで戦うのかなとか・・ 


編集部:
そういうことは、誰も教えてくれないのですか?


桑原:
教えてくれないですね。


編集部:
そこの道場のみなさんは、そういう疑問はもってないんですか?


桑原:
・・・ないでしょうね、たぶん。


編集部:
ただひたすら、その日の稽古をくり返して・・・?


桑原:
だから、もう、スポーツジムみたいなもんなんですよ。(笑)
ひと通りの稽古をやって、気持ち良く汗をかいて帰る・・・
以前にウチの先生が、新興カラテの黒帯だったら、初段でも三段でもそんなに変わりはない。
コンビネーションの持ち駒の数とか、それが上手いかどうかくらいの差だ、って仰ったことがあるんですけど、確かにその通りだと思いますね。
そのコンビネーションを、ひとつよりふたつ、ふたつよりみっつに増やすような練習をひたすらやる。ミットを叩いて、サンドバッグを蹴って、相手をぶん殴る練習をして行く・・・


編集部:
ご自分が求めていた強さがそこには無かったということが、太極武藝館に入門する動機になった、
ということでしょうか?


桑原:
そうですね、僕は手も短いし、足も短いし、身体も大きい方じゃないんで、
どうしてもリーチなどが不利なわけですよ。
そこの空手から分れた「○○館」っていうところの館長をやってらっしゃる先生が、中国で拳法を学んだ或る先生のところで修行されていた時期があって、何年か経つと、自分の手や足の長さが3倍か4倍に感じた、というコメントがあったんです。「まさか!」と思ったんですけど・・・
現在、私が居たところではその中国拳法を取り入れているんですが、静岡のこの辺りでは「本物」になんか絶対に出逢えないんで・・ビデオなどを見て、站椿とかいうものをやるといいらしい、などと言うぐらいで、何でそれがいいのか、どうなって、どうやるのか、全くわかんないんだけど、みんなで太ももをブルブル、ブルブル振るわせながら、それを目指してやってました。
・・・僕はやらなかったですけどね(笑)


編集部:
結局、中国拳法のやり方を空手的にやってしまう感じなんでしょうか?
これをやったらどうなるという理由が明確に解らずに、その形と回数をやったら強くなる、
というような?・・・


桑原:
そうです。けれど、僕はそれ、嫌いなんですよ!
もともと空手の体系に「站椿」なんていう稽古は無いんで。
そのときは少なくとも自分は空手家だと思っていたので、それだったら借り物をやる必要はない、
と思っていました。


編集部:
今では、ここできちんと「站椿」をやっていますよね!


桑原: 
今は、暇さえあればやってますね。
あの「立っている」っていう感じがなんとなくわかってきてから、面白くなりましたね。
あの「動きながら立っている感じ」・・ですよね。
正式弟子のKさんにひっくり返されて、またひっくり返されて、何が違うんだろうかって・・・
ここでは、みなさんが稽古中に丁寧に教えてくれるじゃないですか。
教えて頂いて、なるほどなあ・・となってくると、もう、おもしろくて、站椿がおもしろくてしょうがなくなってきて・・
先生が、「站椿やれば強くなるぞ」って。
「秘伝は、站椿と歩法だけだよ」って、おっしゃったんです!
そうか、だったら、ひたすら站椿やりゃあいいんだって思いました。
目が悪くなって入院した時も、病室でずっと立ってましたね。
「站椿だよ!」って先生がおっしゃったんで、站椿を大切にします。
・・・今までは答えがなかった。
答えが誰にも教えてもらえなかったんで、ずっと手探りで来たんです・・・


編集部:
指導する側が、よく解っていなかったということでしょうか?


桑原:
そのとおりです。
実は、こちらに見学きたときには、僕がまだ空手を指導してる立場だったんですけども(爆笑)
指導と言っても、指導してる私が手探りで指導してるんですからね。  
空手には空手の「基本」って言うものがあるんですけども、僕はそれが絶対大事だと思って、指導の中心にしてやってきたんだけど、残念なことに、今ではそういう人はほとんど居ないといわれています。
基本をおろそかにして、とにかくミット叩いて、汗流して、スパーリングやって汗流して、
「ああ、楽しかった!」で門人を帰らせる指導者が多いみたいですね。 
まあ、その方が楽じゃないですか、教える側も・・・
で、やってる方も、「やった、今日はよく練習やったなー!」みたいな感じで・・


編集部:
・・・何だか、スポーツクラブみたいですね。


桑原:
そうです。ほんとにそんな感じですよ。(笑)
だから、何かが違うんじゃないかと思って、僕はスパーリングなどもやらない時期がありました。
空手だと、三戦(サンチン)立ちとか、前屈立ちという立ち方があって、そこから移動稽古をしていく。それさえまともに出来ないのに!・・・
太極拳で言えば、歩法をわかんないヤツが、戦えっこないんですよね・・・
ちゃんと立ってない、歩けないヤツが、まともに戦えっこないんですよ!
最近、私が教えていた所で娘が空手をやっていて、保護者として合宿に同行してくれって言うんで行って来たんですけど、見ていると本当に教え方が雑になっていましたね。      

編集部:
ここの稽古方法は、どう思いますか?


桑原:
本当は、こうあるべきだと思います。
まず、きちんと「立つ」ということを中心に、「学習体系」が明確に在る。
そして相手との間合いも緻密で、対人練習にしても、とても細かくやっている。
やっぱり「武術」というのは、所詮は命の取り合いじゃないですか。
下手に殴っていったり、足が居着いたりしたら殺されちゃうわけなんで、そのくらい細かくやっていかなくちゃ、絶対にダメだろうなって思います。


編集部:
空手をやってきて、戦う場を多く経験していらっしゃるから、その実感がおありなんでしょうね。
何もやってきていない人が太極拳を始めて、手はこうだよ、足はこうだよって先生に言われた時、それをきちんとしないと、武術では殺されちゃうっていうような考え方までには、なかなか至らないんじゃないでしょうか。


桑原:
実際に命の取り合いをする場面なんて、一生に一度も無いかもしれないけど、武術の究極はそこだと思っています。
使わなきゃ使わないに越した事はないと思うんですけど、武術の核心のところは、殺すか、殺されるかってところに在るんじゃないかと思うんです。
稽古で先生がおっしゃいますよね、「居着いたら殺されるよ」って・・
ほんとにその通りだとおもいますよ。
今思えば、私がやってた空手なんか、もう、みーんな居着きまくってましたよ!(笑)
空手だけじゃなくて、今どきの武道はほとんどそうじゃないんですかね・・・
まず、それを大切なこととして気にしているかどうか・・・
本当に、みんな「止まってる」というか・・
この道場でやってる事とは全然中身が違うんですよね。驚きです。


編集部:
アントニオ猪木に憧れてきて、今はどうですか?


桑原:
今は、先生みたいになりたいですね!・・・すごく単純ですが(笑)
日本で一番っていうか、もう、私には世界で一番だと思えるんですよ・・・
そんな先生に教えて頂けるということは、とても幸せですよね。
考えられなかったですよ。そんなこと。
しかも、こんな田舎で・・・
田舎で、というのは変な言い方かもしれないけれど、やっぱり本物というのは、空手だったら沖縄に凄い人がいるとか、中国にほんとに拳法の強いお爺さんが居るとか・・・


編集部:
なのに、何でこの掛川に?・・って?


桑原:
そう! 空手の先輩でもあるFさんから、先生やこの道場のことを聞いた時には、
「またあ・・!」って思ってたんですよ。
Fさんから「でも、ほんとに凄いんだから!」って言われても、いくら凄いったって、見るまで信用できないですよね(笑)
でも、このビルの階段を上がって来て、道場に居る先生を見た瞬間、
「うっわあ!本当に居たんだ、こんな人!・・すげえっ!・・」って思いました。
それが正直な感想ですね。
そもそも、ウチの先生がこんな掛川なんかに住んで居られること自体が驚きです。
しかも隣町にですよ! 僕が住んでる町の!(笑)
こんなことが、ほんとにあるんでしょうかねえ?


編集部:
先ほど、空手に居た時は、稽古が終わったあと、何か疑問が残ってしまう終わり方をしていたと言われましたけれど、ここでの稽古が終わった後はどんな感じですか?


桑原:
稽古終わった後は・・・ニソニソしながら帰ってますね(笑)
ちょっと、俺、変わってきたかな!・・って思いながら、ね。


編集部:
毎回、毎回、何かをつかんで帰っていく?・・・


桑原:
そんなに何かをしっかりつかんでいるわけじゃないんでしょうけど、Kさんたち上級者が、
「これちょっと、この前よりいいよ!」とか、言ってくれるわけです。
そういうのが、ずっと頭のなかでニソニソしてる・・・
「やった!俺は伸びてるんだ!上手くなってるんだよぉ!」って思いながら帰るんです(笑)


編集部:
そういうのは、空手では無かったんですか?    


桑原:
反対に、いつもハテナ(?)を抱えながら帰ってましたね。
空手でニソニソできたのは、ベンチで100キロあがってたのが105キロあがるようになったとか、スタミナが切れずにサンドバッグを何分蹴れたとかいうことばっかりで・・・(笑)
人間の体って凄いなと、頑張れば、最初1分しか叩けなかったのが2分になって、2分が5分になって、5分が10分、ずーっと叩いたり蹴り続けることができるんだなって、そんなことが本気で嬉しかったんですよ。
でも、ここへ来て、そんなことが何もかも無駄だったってことがわかった時は、本当にショックでしたよ! 今までの俺は何やってたんだろうって・・・
いったいこの十年間、何やってたんだろうみたいな・・・
「オレの十年間を返してくれ〜!」って感じですかね。(笑)

空手時代に、たまにフラーッと知らないやつが道場に来て、「あれ誰?」ってきくと、「毎年一回ぐらいしか来ない人ですね」っていうんで、そう、じゃあ、思いきり殴ってみようかなって・・(笑)
僕は、いつもは組手で、そのまま真直ぐ突いて当てるだけだったんで、常に疑問に思ってたんです。もっとこういうふうに当てるとこうなって、たぶん効くだろうなって。
それで、そいうパンチを彼にねじりこんでみたら・・飛んだんですよ、そいつが。
1メートルぐらい飛んでから、後ろで見学してるやつのとこまで行って・・・
笑いましたね、「オレって、すっごーい」と思って・・・(爆笑)
しばらくは、拳を見ながらニタニタ笑ってたらしいですけどね。(笑)
その時、自分が手探りでやってきた練習方法が、決して間違っていなかったんだと思いました。


編集部:
結局、そこまではよかったんでしょうね。
そこまでは、ちゃんと練習を積んで力をつけていけば、出来るようになった。
でも、それ以上を求めようとしたときに、果たしてこれで良いのか、と思ったんでしょうね。


桑原:
そうですね。だから、先生と初めて手合わせをして頂いた時には、もう、本当にショックでした!
ちょっと、自信あったんですよねー・・・ちょっと!(笑)
「やっぱ、怪我さしちゃ悪いかなー・・」とか、思ったりしてたんですけど(爆笑)
でも、「思いきり来ていいよ」って言われて、それでも初めは様子見ながら行ったら、何だか、わけが分からないうちにひっくり返されて、そのまま逆手をとられて、床の上であっというまに動けなくなって・・・
「えー、ウッソだろー?!」と思って・・・自分がどうなってるのか、まるでわからないうちに、あっというまに倒されてしまうんですよ。
「ええー、何だ、この人!? ウソだろー」って、何度も何度も思って、だんだんだんだん夢中になって・・・
でも、どんなにムキになって向かって行っても、同じようにコロコロやられてしまうんです。
知らないうちに、いつの間にかひっくり返されることが何度も続いて・・・
「遠慮なく思いきりかかってきなさい。蹴っても突いても組み付いても、好きにして良いから」って先生に言われるんですが・・・
ところが、蹴ろうが、突こうが、叩こうが・・・まるで雲を相手にしてるようなものなんです。
「ええーっ、何だぁ?この人は!」・・・
やっぱり、とんでもないヒトなんだなあ、って・・・

・・・ショックでしたよ!
少しは自信があったんですけどね。
ほんとに、オレの十年を返せ!って思いました。
先生とやると、まるで大人と子供みたいなもんですね。
「人間」対「知性のない動物」っていうか(笑)・・そのぐらいの差を感じましたよ。
もう、私にとっては「すごい!」の一言です。
ほかには言葉がみつからないですね。
今まで、あの空手が「最強」だと思って、これをやってれば強くなれるよって信じて、
ずっと信じて、十年もやりつづけてきたことが、全く通用しないんですからね。
・・・パンチだって、まるで当たらない!
・・「受けられている」んじゃなくて、まるっきり当たらないんですよ!!
いくら砂袋を叩いて拳頭を硬くしても、脛を強くしても、当たんなきゃ何にもならないですもんね。
意味ないですよね。
だから、今までのオレは何だったんだ!って思いました。
でも、その経験があったから先生の凄さがわかったんだろうし、
それがあったから、この道場に何も迷うことなく入門して来れたんだろうし・・・


編集部:
そうだと思います。
そのような体験をしてないとわからないでしょうね。先生のすごさっていうのは・・・


桑原:
「寸勁」とか「発勁」とかいうのは、言葉では聞いたことがあって、
アントニオ猪木が達人の寸勁だか発勁だかを見たことがあったらしくて、
弟子の藤○なんとかっていうのに「俺もできるから見せてやる、藤○っ、前に立ちなさい!」って
言うと、藤○が自分から飛ぶんですよね、ポーンって!・・・(爆笑)


編集部:
・・・自分から飛ぶ?(笑)


桑原:
そう、はっきり言って、たぶんヤラセでしょうね(爆笑) 
だから、やーっぱり、そんなのあるわけ無いじゃん!って思ってたんですよ。
ところが、あったんですよね! ほんとに! 
これはもう、私にとってすごいショックですよ。
だって、あのFさんがドカーンって殴ってきても、Sさんが90キロ以上の肉弾で殴ってきても、
ただこのへんがちょこっと痛いだけなんですよ。
で、先生のは、受けた時に痛くないんですよね。
もちろん稽古なので、すごく手加減されてるんですが。
でも、フワッと軽く押されて、全然痛くないんだけど、
立ってられなくて、はるか後ろの壁までズドーンと吹っ飛ばされちゃう・・・
発勁なのか寸勁なのか、まだよくわからないけど、「これなのか!」・・って・・
最初は、ホントにびっくりしました。
僕はもう、まるで子供みたいに、これこれ、これが出来るようになりたいっ!!って思って(笑)
ほんとに、つかみたいですよ、もう!!
アレを見ちゃってからは、もう、ひたすら、先生みたいになりたい一心ですね!
ほんと、単純に、それだけです!


編集部:
たいへん楽しく貴重なお話を聞かせて頂きました。
長い時間、本当にありがとうございました。

(了)

(2005年3月27日掲載)

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