太極武藝館


太極武藝館脱力を考える




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力学的エネルギー保存の法則


   スキーをしていると、斜面を滑り降りてゆくとはじめのうちはゆっくりですが、
   徐々に速くなっていくことは、誰もが経験したことがあるでしょう。

   これは、はじめに持っていた「位置エネルギー」が、徐々に「運動エネルギー」
   に変換されていること
を意味しています。

   ここで、質量 m の物体が高さ h1 A 地点から滑らかな局面に沿って、
   高さ h2 B 地点まで、スキーで滑り降りる様子を考えて見ます。
   物体は AB 間において重力だけから仕事をされるため、速さは v1 からv2
   に変化しています。
   重力がする仕事 W AB における位置エネルギーの差になっています。

   そのため、

W=mgh1−mgh2 …… (12)

    
   であり、上述のエネルギーの原理より

1/2mv22−1/2mv12=mgh1−mgh2
                     
……
(13)


   となり、この式を整理すると

1/2mv12+ mgh1=1/2mv22+ mgh2
               ……
(14)


   A 地点B 地点それぞれの位置エネルギー運動エネルギーを、
   力学的エネルギーといいますが、力学的エネルギーは、 A 地点B 地点
   どちらでも等しいことがわかります。

   このことを、「力学的エネルギーの保存」といいます。






重力 〜地球が引っぱる力〜


   「重力」を考えるとき、皆さんはどのようにイメージされるでしょうか。
   「重力」は地球上にある物体を、地球が引っぱるチカラのことです。

   あまりピンとこないかもしれませんが、重力とは「万有引力」のことを指して
   います。 万有引力は、ご存じのように、その昔、物理学者ニュートンさんが、
   「リンゴが木から落ちる」という現象に注目して解明されたものですが、
   質量をもつ物質は引力をもち、物体間で引きつけあうという性質をもっており、
   この引力のことを万有引力といいます。

   式を用いて説明すると、地球が物体を引く力を F[N]地球の質量をM[kg]
   物体の質量を m[kg]地球の半径を R[m] とすると


F = G・mM/R2 …… (15)  (ただし、Gは定数)


   となり、万有引力は、2物体の質量の積に比例し、物体間の距離の平方に反比例
   します。すなわち、万有引力は、重くて近いほど強くなるのです。

   また、よくロケットなどで「発射時のGが10Gにもなる」などと表現したり
   しますが、このことは、
   (15)を簡潔にするために、g=G・M/R2 とすると、
   (15)

F = mg …… (16)


   ・・・となり、この g のことを重力加速度といい、値は 9.8[m/s2
   
なります。 
   地球上にある全ての物体は (16)のように、質量 m g=9.8 [m/s2
   をかけたmg という力で引きつけられています。

   10G というと、ちょうど重力加速度が10倍になっていることを指し、物体は
   10mg の力を受けることになります。
   これは、例えば、60[kg]の人だと、ロケットが打ち上げられる時には、
   600[kg]もの体重に換算されることになります。
   また、逆に月では1/6gとなり、60[kg]の人はわずか10[kg]の体重に
   換算されます。







力のモーメント


   シーソーについて考えたとき、皆さんが経験したこともあると思いますが、
   シーソーの外側にいる方が、内側にいるよりも少ない体重で自分の方へ傾ける
   ことができます。
   これは力のモーメントについて考えると説明することができます。

   力のモーメントとは「物体を回転させる力」のことです。

   力が物体を回転させる働きは力の大きさ F[kgw]回転軸 Oから作用線に
   おろした垂線の長さl[m]との積で

N = Fl …… (17)


   ・・・と、表すことができます。

   このことは、つまり、
   作用点が支点より遠いほど、発せられる回転力(力のモーメント)が大きい
   ことを示しています。





* * * * * * * * *



   さて、これでひとまず、「武術を科学する」のに必要な物理学の知識を、一通り
   説明しましたが、皆さんは、よく理解することができたでしょうか。

   もし、数式などが難しくて理解できないとしても、ある程度のイメージが捉え
   られていれば、これからさまざまな例を挙げて説明していく「武術の物理学」
   について、かならず理解できますので、ご心配には及びません。

   それでは、いよいよ本題の「脱力の原理」に入って行くことにしましょう。 


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