伊豆で太極武藝館の「合宿セミナー」が開かれたときのことである。
会場にある20メートルのプールで、師父は水の中に胸まで浸かって立ち、腕を出して歩き、他の2人はそれぞれ平泳ぎとクロールで競争する(!)、という「歩法の実験」をしたことがある。
結果は、2メートルほどの差をつけて、師父の勝ち!
他の2人はほぼ同時にゴールし、すでに到着している師父を見て非常に驚いた。
いったい、どうすれば、泳ぐよりも早く水の中を歩けるものだろうか。
師父と一緒に競争した2人は、水泳の選手でこそないが、素人目から見ても上手い泳ぎ手であり、太極武藝館では重量級の大男たちも怖れる、屈強?の女性たちでもあるので、齢、50歳を間近とする師父に、遠慮や手加減をするようなヤワな精神はサラサラ持ち合わせているはずもない。
ちなみに、それを見ていた他の門下生が、試しに彼女たちが泳ぐのと同時にプールサイドを普通に歩いてみたところ、ほとんど同時に到着した。
・・・と、いうことは、師父は陸を歩く人間よりも速いペースで水の中を歩いたことになる?!
師父の水中での歩き方は、順歩と順体を守った「跨歩 (kua-bu)」という、陳氏太極拳の基本功にある歩行訓練のやり方そのものであり、その姿は、ヒトというよりは、まるでイルカが尾ヒレで立って歩いているような異様な格好で、シナシナと、しかし軟弱には見えず、むしろ力強く、水を割るように歩いている。
師父の身体の左右にはきれいなかたちの水の渦が発生し、不思議と、それがしばらくの間消えない。
また、決して急いでいるようには見えず、身体を極端に前傾させてもいず、また、潜って観察すると足は全くつま先で蹴っておらず、カカトも挙がっていない。
胸まで水に浸かっている体は、相当な水の抵抗を受けているはずであり、両腕は水から上に出されているので、手のひらで水を掻いて推進力にすることもできない。つまり、ただ単純に「歩いている」だけなのに、泳ぐ人よりも断然速いのである。
この報告を聞いて、もと水泳部の門人が言った。
・・・うーん。水中で歩くのが上手いのはカニくらいかなあ(笑)。
当然、泳ぐ方が効率的です。少しでも泳げる人の方が歩くよりは速いはずですね。そうでないと泳ぐ意味がなくなってしまうので(笑)、だからこんなこと、普通は信じられないでしょうね。
水中では浮力があって、「軽重浮沈」の「浮」が初めから効いているようなものですから。プールの底を蹴ってしまうと、簡単に身体が浮いてしまいますよね。
で、身体が軽くなる分、脚の接地力や摩擦が減り、効率よく蹴れない。当然、"落下" も使えない。つまり、私たちの言う、「踏んだり・蹴ったり・落っこちたり」という悪癖三点セットはまったく使い物にならないんですね。それらをやろうとしても、思うようには行かない。
更には水の抵抗もあるし。これが出来るには歩法が正しくないと絶対無理でしょうねー。
それも、かなり早く動ける身体が備わっていないとダメだと思います。
師父は同じように、水中で套路も演じられますよね(笑)。私たちがやると、あっちへヨロヨロこっちへヨロヨロ、とても陸上と同じようにやるのは難しいです。
水の中で行う練習は、いろいろなことを教えてくれますね。・・・
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